見合い事件(ヤガミSS2)

犬猫人間が”黒”と和解を試みようと、人間の文化とも言える「お見合い」を持ち出したのは初夏の頃。

 迷宮に挑み危機に陥った人間の目の前でWTGが開き、
 ”黒”達が現れた所からこの話の幕は上がる。

 他のオーマと違い、好印象を持った人間達がなんとか仲良く出来ないものかと
「お見合い」が上がったまでは善い作戦としよう。

 だが、事態は余計な方向に進み、男しかいない”黒”に女装してまで参加する男達や、
わんわん帝國の宰相が何をトチ狂ったのか、我が娘の「お見合い」を阻止しようと
「グリーンジャケット(GJ)」を結成したのは知っての通り。
GJに対抗する為、お見合いの警護隊「トレンチコート」なる物まで結成された。

 そして俺、ソウイチロー・ヤガミはそのトレンチ側にいる。

犬猫人間が”黒”と和解をする為の「お見合い」。それなのに二つに分かれて争うだと?
本当に馬鹿げているとしか言いようがない。でもそんな事、今はどうでもいい。

 俺にとっての問題はただ一つ。
あの「黒崎克哉」が、見合いに立候補したり、あまつさえGJに参加している事だ。

 見合い候補選抜から落選した黒崎が、もぐりこんだチームは女1人に男4人の構成。
メンバーの女が同じく落選して、強奪部隊を結成し、
そして奴は今、嬉々としてその手伝いをしてるという訳だ。

 そんな情報をたまたま手に入れた時、俺は非常に腹が立った。

 何に腹が立ったのかわからない。
だが、この間小笠原で冗談でも俺の事を「好きだ」とか言ったその身で
俺の他の奴(特に女)の為に働いてるのは、考えるだけで腹が立つ。

 初めて出会った時、奴のことは好印象だっただけに、俺としては色々真相を確かめたい。
それだけの為に俺は、トレンチ側で警護していた。

と、そんな思いに耽ってた瞬間、辺りに爆音が轟く。

 来た!

 『GJがバッドを攫っていった!!』

 トレンチコート側の無線からすぐさま右手にドリルを装備したケントが
逃走している、という情報が流れる。
思わず手にした無線機をギリッ、と握り締めた。

間違いない、あいつらだ!

 「ついてこい!」

理由の判らない憤りを胸に抱えたまま、俺は自然と走り出していた。
爆音が聞こえてから、さほど時間は経っていない。
 あんな機体が逃げるとしたら…
RBを起動させつつ持っている情報を整理してみる。

 I=Dの逃走に適した地形。ケントの性能。
それらを考慮して奴らが逃走に使うであろうルートを予測する。
導き出した答えとして出た結果は程近い森の中。

 「…ビンゴ」

 思った通り、生い茂る木々を上手く利用しながら攫ったバッドを片手に
迷彩色に施されたケントが逃走している。

 「……くそっ」

 何を考えてるんだアイツは!
そんな事を考えながら、森の中を疾駆するケントを追いかけていると、
どうも向こうもこちらに気がついたらしい。

 『何追いかけてきとんねん、ヤガミ!』

依然逃走を続けるケントのスピーカーから、明らかに動揺している声が森に響く。

 お前のせいだろうが!
腹立たしさが段々酷くなってきた。

 「絶交だぞ!」
 「今なら許す、はやく戻せ」

 そう、今ならまだ許してやる……今ならな!

前を行くケントに警告すると、機体から双樹とかいう奴に蹴り落とされるように黒崎が現れた。
GJの緑のジャケットが貧粗な体に似合っていない。

 「絶交はいやだ!でも親父は戻されはせんな!」

あいつはそんなことを言って、一緒にいる気の強い三つ編み女を庇っている。
どこまでも仲間を庇う気満々だ。

 「そうか」

前回と違い俺に反発する奴の態度に、俺の目の前が真っ赤になった。
そんな怒りのオーラを察したのか戸惑いの言葉を投げかけてくる。

 「なんで怒るんや…」
 「なんで親父をおっかけるん、ヤガミ」

 まだわからないのか?こいつ…。
そんな黒崎にムっとして答えてやる。

 「決まっている」
 「春雨さんはかわいいだろう」

お前だって、俺が他(女)を褒めたらいい気はしないだろうが。

 「返してやれ。別に機会は作ってやる」

譲ってやるのはここまでだ。だが……。

 「でもこっちのお姫さんも本気なんでなー俺は協力する気になったんやけど」
 「なんとかわかってくれへん?」

俺より女選びやがった!!信じられん!!

 ぷっちーん!
俺の頭の中で、何かが切れた音がした。
ワナワナと、体の震えが止まらない。



「友情評価-2!!」



俺は、森中に響く位でっかい声で叫んでやった。
驚いた鳥達がギャアギャアと鳴きながら次々に飛び去っていく。

 「ああ!ちょ?!」

ようやく俺の気持ちが、奴にも分かったのだろう。
真っ青になっていく黒崎を見て、俺の気分はスッキリした。
 ざまぁみろ。

 「いや!!それだけは勘弁やーヤガミ!!」

 …フン、まったくもっていい気味だ。
奴は半泣きになりながら、慌ててこっちにやってきて、抱きついて泣きついてくる。
だが俺は、ふんと鼻を鳴らして奴を押しもどす。
 こんな奴……もう、どうでもいい。
 気にした俺がバカだった。

 「何?そんなに春雨さんのほうがいいんか?」
 「ずっとお前を探してたのに…」

黒崎は肩を落とし、さめざめと泣く。
 あー、うっとおしい。
 まったく、こっちが泣きたい位だ。

 「春雨さんがどうとかじゃない」


問題はそこじゃないだろう。
よく考えることだ。


 「だったらなんで怒るんだ、わからない」

おろおろしながらションボリして考えこむ黒崎を見ていると、溜息が出る。

 「好きになるって、そういうことじゃないだろ」

そう、好きになるというのは奪う事じゃない…。
好きなるとはもっと大切なことだ…。


 「俺の権限で正当なお見合いの席は用意してやる。ここは引け」

それだけ言って、俺は踵を返す。

 こいつらは確かに間違った事をしたとは思う。
 だがこいつらは、少なくとも仲間の為を想って動いていた。
それだけは評価してやろう。

 「約束は守る」

そう言い残し俺は”黒”に約束を取り付けるためにその場を後にした。



お見合い当日。



俺は庭を眺めつつ、見合いの行方を見守っている。
襖の向こうからは和やかな雰囲気が感じられる。

会場に現れた黒崎は、あの時の気分を引きずったままなのか、
俺の顔をちらちらと見るだけで、何も言わずに隣に腰を下ろした。
黒崎は項垂れたままだったが、流石に先日のことは口に出さなかった。
 よほど俺からの「-2」が堪えたのだろう。
しょんぼりと耳をへたらせたまま何も喋らない。
もしこれ以上空気が読めないようなら、-4をくれてやるところだ。

 まったく…
そんな考えに耽っていると、双樹が現れて俺に先日の件で文句を言った。
 だがお門違いだ。そう思う。これは俺達の問題だ。口出しするな。部外者のくせに。
鎧袖一触、部外者を説き伏せて黒崎に気付かれないように様子を伺ってみる。

 相変わらずなその様子を見て、今度からは気をつけることだな、と内心思う。
 だがもし、次にこんな件で呼ばれたら、こいつをどうしてやろうか。

そんなことを考えつついつの間にか終わっていたお見合いを見届けて俺は会場を後にした。


思い起こせばここから黒崎との俺との長い茨の勝負が始まった訳である。




SS:黒崎克耶

※あくまで黒崎が考えたヤガミ視点のSSです。
 事実と異なる解釈(都合いいともいう)もありますのでご了承ください(笑)

 台詞のみ、ログから抜粋加工してあります。



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